滝山団地の“ちょっとイイ”お話

管理組合の理事たちが団地で見つけた良いことや興味のあることなど「よもやま話」を語ります。
興味がありましたら読んでください。

【環境整備より】第20回「登り滑り台の誕生と現在」

こんにちは、環境整備担当理事の谷口です。

前回に引き続き、綺麗になった4つのコンクリート滑り台についてお話し致します。

この滑り台の正式名称が『登り滑り台』であることは前回申し上げましたが、では一体誰がいつ名付けたのでしょうか?

 その答えが一冊の本にありました。東京都公園協会 が出版している雑誌『都市公園= Public parks』の25号(1960年8月発行)です。

この本の26ページには日本住宅公団の館野茂夫氏が執筆した「登り滑り台」が登場します。この文献は現在、国立国会図書館で閲覧することが出来ますが、インターネット上には公開していないため文章のみを引用いたします。

登り滑り台   館野茂夫

この登り滑り台の設計図は、滑り台を多少変形させタイプを大きくしたことが主なるものであります。特にタイプを大きくした理由は、団地内の遊び場においては場所によって今までのようなスケールの遊戯施設では非常に貧弱であるということからきています。ということは、団地というものの性格例えば建物自体の規模とかその連続的な景観、道路や緑地の開放的な拡がり・・・などのために、団地内の遊び場とか遊具に新しいスケールいわば“団地的スケール”をもちこむ必要があるということでしょうか。とにかくそういった意味で遊具に限らず凡ゆる施設面で改良を試みていますが、その一つとして変形滑り台(太鼓橋型)を御紹介する次第です。

滑り台の全姿は6×2×2mの大きさで、中央には半径1.8mの半円形トンネルを設け利用価値を上げました。登り面は今までのような階段方式はやめて足掛金物を取付け、在来の脚力だけのものより腕力をも併用して登ることにしているので、滑り台というよりむしろ「登り滑り台」という性格を帯びています。滑り面の巾は今まで普通0.6m程度でしたが、約倍の1.1mとし、滑り遊びの単調さを改善しました。なお滑り面は人造石研ぎ出し仕上げ。

 トンネル部分は遊び場の構成の際に他の施設や周囲環境との関連を考慮すれば三輪車トラック部分などとのコンビネーション等に別の利用価値も見出せそうです。なお、この滑り台は現在製作中で八月頃竣工の予定

(日本住宅公団)

この文献を読んでいただければお分かりのように、この滑り台はまさに団地内公園のために設計されたものであり、また、滑り台本来の遊び方「滑り降りる」以外にも「よじ登る」ことや太鼓橋の下を「潜り抜ける」など遊び方に拡がりを持たせていることが特徴になっています。滑り面に人研ぎ仕上げを採用することも書かれていますね。

当団地においては、公園内の通路の上にわざわざこの滑り台を設置していることからも、公団の造園担当者が館野氏の設計思想を理解した上で公園設計をしていることが分かります。

なお、日本住宅公団が作成したこの滑り台の設計図は当時、多くの公団団地に採用されていたようで、滝山団地と同じ年代に建てられた他団地内の公園には今でも多くが残されています。現時点で私が把握しているものだけでも日本各地に20~30基は残っており、関西の方では近年製作されたものもあるようです。

次の写真は千葉県にある公団分譲『稲毛海岸三丁目団地』の公園内にある3基の登り滑り台です。この団地の管理組合では公園改修委員会がすべり台の塗装デザインについて小中学生より公募を募り、実塗装の際には、子供たちに手伝いをしてもらいながら業者が完成させた経緯があるそうです。素敵なデザインですね。

(稲毛海岸三丁目団地 管理組合法人様のウェブサイトより引用)

稲毛海岸三丁目団地の登り滑り台も通路の上に設置されているのがお分かりになると思いますが、滝山団地2街区にある2基の滑り台においては橋下空間の高さが170cmに満たないため、大人がここを自転車で通行する時に頭部をぶつけてしまう事故が絶えません。(コラム第4回参照

そこで、今年の3月に2街区・東小公園Ⅰの黄色滑り台について通路の高さを下げる工事を行ない、橋下空間に180cm以上の高さを確保することが出来ました。同時に通路の材質をコンクリート平板から柔らかいゴムチップに変更することで、万一、子供が滑り台の手摺を乗り越えて落下しても大けがをしないような対策を施しました。東大公園の青色滑り台下通路についても今年の秋に同様の工事を行なう予定です。

改修後の黄色滑り台下通路
  • 大人が自転車で通行しても頭部がぶつからない
  • 子供が落下しても大けがをしない

普段何気なく存在している公園遊具にも、それを設計した先人たちの知恵と工夫と子供達への思いが詰まっていることが分かり、私はとても嬉しくなりました。団地入居開始から53年間、いつの時代も子供達に大人気だった滝山団地の『登り滑り台』をこれからも大切にしていきたいですね。

次回は「憩いの場所・パーゴラとレストコーナー」をお話しいたします。お楽しみに。